こんにちは。まめちゃん(@mame_chang)です。韓国で二人の子どもたちを日韓バイリンガルにしようと、毎日努力中です。
言葉というのはおもしろいもので、飴にもムチにも凶器にも武器にもなると思います。つまり、言葉により相手の気分がよくなったり、叱咤激励できたり、嫌がらせができたり、自分の持っている知識を言葉で表すことで武装できたりするわけです。
そして、外国語として勉強する場合はたいていの場合、簡単な物から難しい物へと文法や単語、慣用句なども覚えて使えるように練習していきます。
外国語として勉強する時は、すでにその人の母語が確立された状態の事が多く(例えば、私が初めて中学校で英語を学んだ時はすでに私の母語である日本語はちゃんと使いこなせる状態でした)、概念などから始める必要はなくすでに母語で知っている言葉を外国語に置きかえていくという作業になります。
そのような、一般的に簡単だと思われている言葉に「こそあど言葉」があります。「こそあど言葉」という言葉になじみがない方も、例えば
これ
それ
あれ
どれ
の最初の平仮名をとった言い方だと言えば、わかるのではないでしょうか。
この「こそあど言葉」は、外国語の学習の時は簡単で初級で出てきます。しかし、それって子どもにとっても同じなのでしょうか。今回このブログでは、
・果たして子どもにとってはどうなのか?
・そして海外に住むバイリンガル児にとってはどうなのか?
・親にできることは何かあるのか?
について、順番に考えてみたいと思います。
こそあど言葉って子どもには難しい? 親ができる2つのコト。
前置きがちょっと長くなりましたが子どもにとって、この「こそあど言葉」って難しいのでしょうか。私自身がこれらの言葉を覚えた時の記憶はすでにないので、現在育てている子どもたちがどうだったかを考えてみます。
現在小学校高学年の上の子が保育園児だった時、こんなことがありした。
実は子どもは、遠くにある物を指差しながら言ってたのです。そして2回目に
と言った時には、
「何でわからないの?? これだよこれ!」
みたいな感じでした。実際には
「あれ」
というべきところでした。その時に、気がついたことがあります。
「食べたい」
「飲んだ」
「ちょうだい」
など、外国語として日本語を学習する人は「こそあど言葉」を学んだ後に学ぶようなことを、必要に応じで間違えないで言えるのに「こそあど言葉」は間違える。
そして、
外国語として日本語を学習する人なら
「歩いて」(て形)
「歩かせる」(使役形)
「歩ける」(可能形)
「歩かせられる」(使役受身形)
などの文型はルールを学び覚え、ドリル練習してからロールプレイしてやっとひとつずつ使えるようになるのに子どもは文法のルールなんて知らなくてもいとも簡単に
「置いといたお菓子、パパに食べられた〜!」
と受身形の文も作ることができ、棒読みではなくちゃんと感情もいれて話すことができます。
子どもの日本語習得を観察し、外国語として日本語を学ぶ学習者を見ていると、学習者が文法を学びひとつずつまるで積み木を積み上げていくように習得していくのに対して子どもって文法から語彙から表現から、全てを同時進行で覚えていくのではないかと感じました。そして、今回の「こそあど言葉」は、難しい部分もあり、そうではない部分もあるのです。
では、「こそあど言葉」についてもう少し詳しく見てみます。
こそあど言葉の使い方は2つある。
この「こそあど言葉」ですが、実は使い方が大きく分けて2つあります。その2つとはどんな時に使うかというと次の2つです。
1.目の前に見える物や人について話す時。
2.目の前にあったりなかったりの物や人について話す時。
では、それぞれについて例をあげます。
★.1.目の前に見える物や人について話す時。
これはわかりやすいと思います。例えば次のような場合です。
・これはペンです。
・それはりんごですか?
・あれは私の猫です。
・どれが◯◯さんのかばんですか。
・自分に目の前にある物(物理的に近い物)には「こ」、
・相手に近い物には「そ」
・話している二人から距離的に遠い物には「あ」を使います。
そしてさっきの例は「これ」「それ」「あれ」「どれ」だけですが、この他にも次のようなものも同じです。
「こっち」「この」「こちら」
「そっち」「その」「そちら」
「あっち」「あの」「あちら」
「どっち」「どの」「どちら」
これは、子どもにとっては最初はわかりにくいとしても日本に住んでたら毎日聞いて毎日使ってるうちに少しずつ覚えていくのではないでしょうか。
★.2.目の前にあったりなかったりの物や人について話す時。
次に2.の例をいくつか挙げたいと思います。
・先週からビタミン剤を飲み始めた。このビタミン剤は母からのおススメによるものだ。
・先日、来年度の予算案が発表されました。それによると来年度は...。
・A「また◯◯さんから電話が来たよ。」
B「あの人のしつこいね〜。」
これは、「文脈指示」といわれるもので、文字通り文脈のなかに指すものが現れるものです。言葉だけみるとなんだか難しいですが、基本的な考えかたは先に紹介した「こそあど」と似ています。
これらの例をもうちょっと詳しく見ます。
・先週からビタミン剤を飲み始めた。このビタミン剤は母からのおススメによるものだ。
→自分に近いと考えられるものは「こ」。
・先日、来年度の予算案が発表されました。それによると来年度は...。
→自分ではなく相手やその他に近いと考えられるものは「そ」。
・A「また◯◯さんから電話が来たよ。」
B「あの人のしつこいね〜。」
→AさんもBさんもお互いに知っている人、物について話す時は「あ」。
最後の「あ」ですが、次のような会話を日本人はしていると思います。
A「また◯◯さんから電話が来たよ。」
B「○○さん? 誰だっけ?」
A「この前うちの会社の経理部に入ってきた人いるじゃん~」
B「それって、背が高くて髪が長い女の人?」
A「そうそう!」
B「あ~、あの人ね!またあの人から電話があったの…?」
会話の途中で「そ」から「あ」に変わっているのがわかるでしょうか。これは「そ」を使っている時は、Bさんは誰のことかはっきりわからないので、相手(Aさん)に近い人として「そ」を使っています。しかし、誰のことか途中でわかったので、AさんもBさんも知っている人なので「あ」に変わったというわけです。
この文脈指示は最初の「.1.目の前に見える物や人について話す時。」よりは、ちょっと複雑なので日本で生まれ育つ子どもも身につけるのに「.1.目の前に見える物や人について話す時。」よりは時間がかかると思います。
それでは、バイリンガル児にとってはどうなのでしょうか。
バイリンガル児にもこそあど言葉は難しい?
先日、私はTwitterで次のようなつぶやきをしました。
、
あれ、これ、それ、どれ、これって簡単なようで難しい事も。
上の子(小学校高学年)
「ママ、うちにそれある?」
私「何?」
そして子供が説明最初に話を始める時は
「それ」ではなく
「あれ」
を使う。目に見えない物や人を指す時が
目に見える物や人を指す時より
習得が難しい。
— バイリンガル育児@まめリンガル (@mame_chang) September 24, 2019
このつぶやきは、上の子(小学校高学年)の話で、「こそあど言葉」で言うと「2.目の前にあったりなかったりの物や人について話す時。」に当たります。ただでさえ、2.は1.より習得が難しいのにバイリンガル児はどうなのでしょうか。
うちの上の子は韓国生まれ韓国育ちです。そして日本には住んだことがないですが、保育園の時には日本の保育園で一時保育をし、小学校の時は体験入学を2回(2年連続で)しました。しかし、母語は韓国語で、日本語は会話は問題ないですが読み書きは苦戦しているという感じです。
このような韓国語が強い子どもの場合、おそらく言いたいことは韓国語で先に考えるか、話す日本語に韓国語の影響がでると思います。
実際、子どもが言った
ですが、会話のはじめにいきなり「それ」はないですよね…。 日本語なら、
子「ママ、うちにあれある?」
母「あれって?」
子「○○する時に使うやつ。」
母「あ~、あれね。そこの戸棚にあるよ。」
この方が自然だと思います。では、うちの子はどうして間違えたのでしょうか。それは韓国語の影響です。韓国語と次のようになっているからです。
1.目の前に見える物や人について話す時。
→日本語とほぼいっしょ。
2.目の前にあったりなかったりの物や人について話す時。
→「こ」「ど」はいいけど、「そ」「あ」の使い方が日本語とちょっと違う。
そのため、さっきのように
は韓国語では「そ」の方が自然だから、つい韓国語を直訳してしまった… といった感じです。また、単にバイリンガルと言っても、どんな言語のバイリンガルなのかによってもこのような間違いが見られるかどうかが変わってくると思います。
バイリンガル育児をしている親ができる2つのこと
では、最後に親には何かできることがあるのでしょうか。それは、次の2つではないかと思います。
1.親がまず違いを把握
↓
2.子どもが小学校低学年までなら根気よく直すまたは高学年以上なら文法的な説明をいれてもいい
バイリンガル育児をしている親が言語と言語の違いを理解していれば、子どもが間違えた時にどうしてそうなるのかがすぐにわかります。そして、何度か同じ間違いに出会うと、それが単なる言い間違いなのか、または間違えたまま覚えているのかもわかります。
そして、間違えて覚えているようなら訂正の必要がありますが、それは子どもの年齢によって少し変えるべきではないかと思います。子どもの年齢が低かったら文法用語は使わず、根気よく訂正し正しい言葉を何度も聞かせます。また、子どもが小学校高学年以上なら「文法」という概念自体は学校の国語の時間などで習っているはずですので、可能であれば文法的な説明をいれてもいいと思います。
言語と言語の違いを把握し、間違いを観察する。そして子どもの年齢や状態を見て説明方法を変える。これが親が出来ることではないかと思います。
まとめ
今回は「こそあど言葉」に焦点を当てて、うちの上の子を例にとってお話をしました。今回のポイントは次のとおりです。
ポイント
・言語と言語の違いを把握し、間違いを観察する。そして子どもの年齢や状態を見て説明方法を変える。
・言い換えると、「親の知識と説明力」そして「子どもの理解力を見ながらの説明方法」がキーワードとなりそうだ。
なかなか難しい面もありますが、少しずつ少しずつやっていけたらいいなと思います。