こんにちは。まめちゃん(@mame_chang)です。韓国で2人の子どもたちを日韓バイリンガルにしようと毎日努力をしています。
私は現在韓国に住んでいて、現地校に通う子どもたちに日本語を覚えてもらうべく家庭では日本語を使うようにしています。また、学生時代は日本語教育や第二言語習得について勉強・研究しました。そして結婚、出産してからは、日本人の集まりなどがあれば、できるだけ子連れで参加するようにしてきました。
バイリンガル育児... というかバイリンガル教育は学問におけるひとつの専門分野で、私が学生時代に学んだ日本語教育も第二言語習得も分野で言うと全く違います。日本語教育は、日本語を国語ではなく外国語として学ぶ人達のための教育だし、第二言語習得は大人の外国語学習者がどのように外国語を身につけるかということなので、海外で育ち現地語と親の母語を身につけるという私が今やっているバイリンガル育児とは違います。
・国語と日本語の違い ↓↓
しかしそれでも対象や内容は違うものの、実際に海外でバイリンガル育児を始めてみて、バイリンガル育児にも役立つ考え方がある事に気がつきました。そしてこのブログではそのようなバイリンガル育児に参考になる考え方(理論や仮説)も時々ご紹介しています。
今回はブログのタイトルにもあるような「情意フィルター仮説」というものについてご紹介し、この仮説がバイリンガル育児にはどのように参考になるのか、親にできることは何かについて考えてみたいと思います。
「情意フィルター」とは?バイリンガル育児に参考にしよう
ではまずは仮説の大枠からこ紹介したいと思います。
★概要
誰の仮説? :スティーブン・クラッシェン
仮説を唱えた人はどんな人?:アメリカの言語学者
この仮説を唱えた人はアメリカの言語学者であるスティーブン・クラッシェンです。私はこのクラッシェンの仮説は大学院で日本語教育について研究していた時に知りました。このクラッシェンの有名な仮説は次のようなものです。
・モニター仮説
・インプット仮説
・情意フィルター仮説
・習得学習仮説
・学習順序仮説
このうちの1つが、今回の話の「情意フィルター仮説」なのです。それでは、もっと具体的にこの情意フィルター仮説について見てみます。
情意フィルター仮説って何?
情意フィルター仮説とは、
不安、自己不信、あるいは単なる飽きのような特定の感情が第二言語習得の過程に干渉するとされる。それは、話し手と聞き手の間のフィルターとして働き、聞き手が理解する言語インプットの量を減少させる。このようなネガティブな感情は言語インプットの効率的処理を阻害する。この仮説は、さらに興味を喚起したり、不安を取り除く環境にしたり、学習者が自信、自尊心が保てるように助けることでこの障碍を低減できるとする。
Wikipedia「インプット仮説」より一部抜粋
Wikipediaにはこのように書いてあるのですが、ちょっと長いこともあり、もうちょっと例を挙げてわかりやすくすると次のようになります。
「不安や自分に自信がなかったり、または単に勉強に飽きてしまったりといった感情が外国語を身につける時にはさまたげとなるということ。それは会話をする時には、話している人と聞いている人の間でフィルターとなってしまう。そしてそれは耳から入ってくる言葉の中で理解できる言葉の量を減らす。このようなマイナスの感情は、耳や目から入ってくる外国語をちゃんと理解するのに影響を与える。不安を取り除いたり自信が持てたり興味が持てるものに関連させると、このようなマイナスの感情を減らすことができるとしている。」
では具体例です ↓↓。
韓国語を勉強している大人のAさんという人がいるとします。Aさんは、最初は自分の興味で韓国語を始めました。しかし、会話の練習もしたいので韓国語教室に通い始めました。ところが、先生や授業のスタイルが合わず1ヵ月で自信をなくし教室を辞めてしまいました。
Aさんの話では授業は以下のようだったそうです。
念のために書いておくと、Aさんの例は私が作ったものなので、実際の話ではありません。しかし、全くあり得ない例ではないので書いてみました。
では次にバイリンガル育児に、この「情意フィルター仮説」はどのように役立つのか?という話に入っていきます。
情意フィルター仮説はバイリンガル育児にどのように参考になるの?
先ほどご説明した情意フィルター仮説をさらにコンパクトにまとめると次のようなのなります。
「不安や自分への自信のなさから、心理的な壁を作ると吸収できるものもできないから、できるだけ苦手だとか難しいとか思わないようにし、そして興味が持てるものを使う。そうすれば、心理的な壁を低くすることができる。」
この考え方をバイリンガル育児に当てはめるとどうなるでしょうか。
まず子どもと言っても年齢層がありますが、たとえ子供が生まれた時くら日本語で話しかけて来たとしても、年齢が高くなり学校が現地校だと現地校で勉強する時に使う言語が強くなります。そしてバイリンガルではあるのものの片方の言語の方が強いバイリンガル(バイリンガルの種類については⬇︎の参考記事へ)になると、日本語を使う時に不安や苦手意識がででくることがあります。
・バイリンガルの種類について ↓↓
そして、不安や苦手意識ができると、わかるはずのこともわからなくなったり否定的な気持ちで日本語に接したりすることになります。そしてそれは、日本語を身につけることを促進せず、逆にさまたげとなります。
例えば、補習校などに通わず家庭で少しずつ日本からの教材で日本語を学習した場合、だんだんとペースが崩れたり日本語に対する子供の興味が薄れたりすると、学年によって学習内容が設定されている教材などはつらくなっていきます。
なぜなら、海外で生まれ育つ子どもの日本語力は学年に比例するとは限らないからです。そして、
わからない
⬇︎
やりたくない
⬇︎
仕方がないからやる
⬇︎
わからない
⬇︎
やりたくない
.
.
.
を繰り返すと負のループにおちいってしまいます。その時に助かる考え方が、この仮説の
興味が持てるもの
という部分です。子どもはどんな物(事)が好きか、何に興味があるか(ないか)を把握し、それに関連づけると親から見たら学習なのですが、子どもは楽しく学べると思います。
我が家でも上の子(小学校高学年)が、日本語の読み書きに苦労し始めてからは、学習内容が学年で設定されている教材は無理だと判断しました。そして、子供が興味を持っている物(事)を話題にして話をしたりしました。また一時帰国の時は日本の漫画が読みたいというので、TSUTAYAで20冊まとめてレンタルを一時帰国中に数回したりしました。
また、正しい日本語を覚えて使って欲しいのはそうなのですが、間違いをあまりにも頻繁に訂正や指摘をしすぎると、やる気が下がることにも繋がると思います。
このように考えていくと、今回ご紹介しているクラッシェンの仮説のひとつの「情意フィルター」とは海外でのバイリンガル育児にも参考になると思います。
バイリンガル育児をしている親に出来る事
それでは、この仮説を参考にして海外で子供をバイリンガルにしようと思う親には、どんなことができるでしょうか。それにはまず、親は自分の子どもについて次の5つのことを把握しておく必要があります。
・子ども日本語のレベル。
・子どもが何に興味があって何に興味がないか。
・子どもがどのぐらい日本語を身につけたいと思っているか。
・子どもの勉強のスタイル。
・子どもが得意なことと苦手なこと。
これらを把握しておくと、子どもの興味に沿った題材を使って日本語を学ぶように仕向けていけるし、子どもが日本語学習に興味がないのに親ががんばって準備をしてしまうということもありません。
意外と普通のことかもしれませんが、このような仮説に基づくものだと知っているのと知らないのとでは親の気持ちの持ち方や考え方が変わって来るように思います。
まとめ
今回は、ある言語学者の仮説を紹介し、それが海外でのバイリンガル育児にも参考になるかどうかを考えてみました。その仮説とはクラッシェンの仮説の1つで、「情意フィルター仮説」というものです。
その情意フィルター仮説とはもともとは子どもではなく大人になってから外国語を身につける人の対象とした仮説です。しかし、見方によっては海外でのバイリンガル育児にも参考になると思います。
そのために親ができること5つ、そして今回の話のポイントは次の通りです。
ポイント
<親が把握しておくこと>
・子どもの日本語のレベル。
・子どもが何に興味があって何に興味がないか。
・子どもがどのぐらい日本語を身につけたいと思っているか。
・子どもの勉強のスタイル。
・子どもが得意のことと苦手なこと。
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そして、
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子どもの不安や苦手意識、自信のなさは日本語を身につける上でさまたげとなるので、子どもの興味などに関連づけることによってそのようなさまたげとなる要因を軽減できる。
「仮説」と聞くと、なんだか難しい仮説と思うかもしれませんが、知識として持っておくと参考になり、良さそうです。